母子通園施設入所以降



〔H11.9月:はじめまして、あおぞらホーム〕

"風の子教室"や"こんぺいとう"は、時々通う母親サークルみたいなイメージがありましたが
母子通園施設は違いました。朝9:30に登園し、靴の整理をしたらその日に使うノート、お手
ふき、コップ、歯ブラシなどは子供が準備できるようにしむけます。出したオモチャもなるべく
一緒におかたずけ、次の活動に移る時にはトイレへ誘導、外で遊んだ後は手洗い、椅子に
座りお弁当を食べておかたずけ、等々。
 こういう日常生活習慣が希は何一つ身についていなかったので、なによりも嬉しい内容でした
希はというと、朝は毎回、玄関で泣き叫びます。この新しい環境に全身で抵抗しているかの
ようです。担当の先生になだめられ、泣きながら教室に入りますが、すぐに出口に私を連れて
行きます。可哀想だけど、とにかく慣れるしかない!そう思ってひたすら通い続けました。
そして私にとって"立ち直る"、"前向きに生きる"為の重要なステップになったのがあおぞらの
先生方、そして同じ障害を持つ子のお母さん達との出会いでした。
 通い始めて何日か目、保護者研修会がありました。母子分離し、お母さん達が別室で勉強会
(お茶飲み会?)等をするのです。その時の私はまだ他のお母さん達ともなじめず緊張の日々
そんな中で、その日のテーマは"半年間を振り返って"というものでした。「ノンちゃんのお母さ
ん何でも良いので、ここ数日の感想でも言ってください」。そう促され、何かをしゃべり出したら
涙も一緒にあふれ出て、どうしよう・・と思っていたら口火をきったみたいにあちらからもこちら
からも啜り泣きの声が・・・。私はいっきに緊張がほぐれ、今までの辛かった思いがみんなと
一緒に流した涙で、洗い流されたような、そんな気持ちになりました。そうか、泣いていいんだ
な・・・。ここには、一緒に苦しんでいる仲間がいる。もう、自分一人じゃないんだ。この時が
私と希と「自閉症」との新たな出発だったように思います。


〔H11.10月〜12月:一喜一憂の日々〕

母子通園施設に通い始めて1ヶ月位たった頃、希に変化が現れ始めました。それまでは人に
抱っこされてもピンと体を反ってしまい、すぐに腕からすり抜けていましたがいつのまにか相手
に体をあずけ、抱っこされても平気になっていました。それもきっと担当のY先生が毎回希が楽
しむ方法でひたすら抱っこしてくれたおかげ!!そして時々ですが、私の後を追って泣く、という
様子も見せてくれるようになりました。(初めて泣かれた日には私も一緒に泣きました)
やったやったー!ノンが私を追いかけて泣いたぞー!!たまにわざと泣かせてみたりなんかして
 ところが、浮かれていたかと思うと、問題となる行動も・・・。今までより少し興味の対象が広が
ってきた希は、外への強い関心から、"1人で外へ出る"事が増えてきました。何度か家の
周りで食い止めましたが、一度はずっと遠くまで出かけてしまい、心配から、見つかった時は
涙が止まりませんでした。さらに自己嫌悪と、私の不注意だと周囲から責められたことに拍車
がかかり、食事も喉を通らなくなり・・・。
 だけどそれも、Y先生に、「これからノンちゃんとお母さんのつながりがしっかりしてくれば絶対
1人では出て行かなくなる。今は、外へ出る時は必ず靴を履くという所から始めよう」と言われ
たことで、妙に心が落ち着き、"今鳴いたカラスがもう笑った"状態に。(私って、落ち込むのも激
しいけど、立ち直りも早い性格みたい、と、最近気づきました)そんな中でも、希にとっては
すばらしい出会いがありました。たくさんの《絵本》との出会いです。ずっと小さい時から見てき
たビデオに出ていたキャラクターの小冊子の絵本が、あおぞらにはたくさん置いてあったので
す。どんなおもちゃにも興味を持たなかった希でしたが、絵本を見つめる目は、求めていた
ものをやっと見つけたんだと訴えるかのように、キラキラと輝いていました。


〔H12.1月〜3月:多忙の日々、仲間とのお別れ〕

あおぞらホームも12月末から冬休みに入りました。希にとってのこの期間は長ければ長いほど
もとの場所への適応に時間がかかるということを思い知らされた期間でもありました。
休みが明けてまた通い始めると、せっかく慣れて一安心していたのに、また9月に逆戻りした
かのようになってしまいました。玄関では以前のように泣き叫び、少し参加するようになってい
た体操やリトミックも、拒絶しているかのよう。来年入園する子達の見学が絶えなかったり
行事が多かったりと周囲が落ち着かないせいもあり、希はペースをつかめずにいました。
 私自身も下の子(光輝)が中耳炎を繰り返し病院通いだったり、ちょうど歩き始めて目が離せ
なかったりで全く余裕がありませんでした。希のこの逆戻りにすっかり戸惑い忙しさからストレス
も蓄積し、お手上げ状態に。そして困った時のY先生。「今はもうダメ、希になにもしてあげられ
ない」と泣き泣き訴えると、「1日5分でいいからノンちゃんだけと関わる時間をつくってみよう」と
アドバイスして下さいました。(いつも適確なアドバイスありがとうございますぅー)
 そしてその気になった母は、その日からせっせとノンちゃんとの時間づくりに励みました。
そうすると、私が落ち着くんですよね。そして全てがうまくいくような気がするのです。(今も行き
詰まって来たりすると、意識して希との時間づくりを心がけています)2月も半ばになると、周り
のみんなの進路がはっきりしてきます。希はあおぞらに残りますが、ほとんどの子が保育所な
どへ巣立って行きます。もうすぐお別れ、と思うと1分1秒でも惜しく、お互いの家を行ったり来
たり。この時期で同じ自閉症のN君やHちゃんとはますます良い関係をつくることができました
みんな、保育所でも頑張ってね!そしてこれからもよろしくね!
そんな思いで退園式を迎えました。


〔H12.4月〜6月:新しい環境・新しい仲間〕

この4月から、クラスの雰囲気がガラッと変りました。希はそれまで体も年齢も小さい方だった
のに、小さい子(1才〜2才)が多く入園したので、急にお姉ちゃんになりました。以前のように
活発に動き回る子が減り、騒がしいのが苦手な希にとっては過ごし易くなったのではないかと
思います。それでも環境の変化には敏感。今までと違う空気を感じ、やはりなじめない日々を
過ごしていました。
 そんな中で、希は自分の居場所を確保しました。それは、みんながゴロゴロできるマットスペ
ースです。何か活動をしている最中も、時々そこへ戻ってゴロゴロ。それを繰り返しながら、こ
の大変化した環境の中にも何とか適応して行っているみたい。この場所が希にとっては最高の
精神の慰安の場になっているようなのです。Y先生はこのことをとても大切にしてくれて、どんな
行事があっても、部屋の隅に必ずこのスペースを作ってくれます。
 希のような子のとって、落ち着く場所、安心する物、心を取り戻す時間というのが本当に必要
なんだな。それを見つけ出し、大切にしてくれるあおぞらホームの先生方。本当に感謝・感謝で
す、と、また今日も思う母なのです。
 そしてこの時期は、新しいお母さん達との出会いの時期でもあります。子供もそうだけど、マ
マ達も大変なのです。しばらくは、なんとなーく腹の探り合い?私が昨年9月にここへ来た時の
気持ちと同じように、不安や期待をいっぱい持って、子供の障害をどう受け止めてよいのかも
わからずに扉をたたいてくるお母さん達です。その気持ちが痛いほどわかるだけに、早く馴染
んでほしいな。あの時の私がそうだったように、早く心の荷物をおろしてほしいな、そう思うので
す。
 こんな風に思う自分がいるのは、やっぱり昨年、同じような気持ちで心から迎えてくれた
先輩ママさんたちがいてくれたおかげなんだろうなー。


〔H12.7月〜9月:進路選択〕

希もそろそろ、来年の進路を選択しなければならない時期が来ました。実は私は、今年度に入
ってすぐの頃は、昨年の子達と同様に、希は保育所の統合へ進めるものと疑いもせずに思っ
ていました。でもこの時期になってもまだ言葉が出てません。オムツもはずれていない、着替え
も出来ない、靴も履けない。挨拶も出来ない、お集まりでは椅子に座れない。日常生活に必要
な事が何一つ出来るようになっていないのです。そして何よりも大切な私との信頼関係は?・・
確かに以前よりはやりとりできるようになった。夜は添い寝させてくれるようになった。でも、希
にとって一番必要な存在になってる?・・・考えれば考えるほど、すべてに自信が持てないので
す。
 この頃の希は、好きなものが増え、大人とのやり取りをしながら遊ぶことも楽しめるようになっ
てきました。周囲を見る力もついてきているようです。しかしそれだけに新しい場所、別の環境
に対しての警戒心が更に強くなってきました。
 この夏、田舎の親戚の所へ訪問する機会がありましたが、どの家にも一歩も入ろうとしない
のです。行った事の無い場所、入った事の無い建物はすべて拒否し、ずっと車の中で過ごして
いました。9月に入って近くの保育所との交流保育が始まりましたが、教室に入ろうとしません
無理に連れて入ろうものなら座り込み、全く動こうとしません。少しぐらい、何をしてるのか見て
みたっていいんじゃないの?・・・見るどころか明らかに人の集まりを無視してるって感じなので
す。このままで統合に入るのが可能なのだろうか。いえ、私が入れたいと思っているのだろうか
もうそういう問題のような気がしてきました。
 夫は初めから保育所は無理じゃないかと言っていました。でも私は希の力を信じたかったの
です。でも現実は・・・?希自身の集団に入る気持ちの準備が全く出来ていないのに、私がこの
子の背中をむりやり押すようなことをしていいの?
 たくさんたくさん悩みましたが、希が一番無理をしない方法をとろう、そう思って来年はN学園と
いう障害児の通園施設を希望することにしました。でも定員が30名なので入れないかも・・。
その時はもう1年あおぞらホームに通おう。小学校まで集団に入れなくたって、別にいいじゃん
(極端だけど)そんな風に私は心を決め、あとはもう悩まずに突き進むことにしました。
一件落着!